シアワセ。

一緒に暮らし始めて半年。
ようやく、最近は幸せだと思うようになった。
毎日帰ってくる、それだけで

君はいつも可愛い、好き、と言ってくれる。
1年前、そういう言葉が苦手なんだよ言うと価値が減る気がするしといってた君に、あたしは女の子は言われるとうれしいんだよって無邪気に詰め寄った。
今やもう本当にこれまで付き合った誰ともひけをとらないくらいの愛情表現。
朝が早い君は、出かける前にベッドのあたしにかならずキスをして出ていく。
それが最高に幸せ。

このまま君と、家族になる日がすぐそこにありますように。
そして穏やかなわたしになりたい。
そのためには、転職が必要かも。
専業主婦にあこがれるけれど、君もよく「専業主婦になる？」と言ってくれるけれど、仕事を辞めることはないと思う。

海外旅行に毎晩のバーでロマンチックな日々。
それよりも、あたしは穏やかで満たされた毎日を過ごしたい。

あ、幸せなんだ。

みずたま。

君がそばにいてくれる幸せ。
かわいいかわいい、大好きだよって言ってくれて、抱きしめてくれる。
病気になれば病院まで迎えに来てくれる。
毎晩眠りにつく瞬間、君の腕の中。

しごとと家事の両立は大変で、君が忙しくてもあたしのほうがばたばたとこころを無くしてるみたいにいつも怒りんぼう。

あたしは、手に入らないものだけに、価値を見出しているのだろうか。

けっきょく、不倫は続く。
不倫相手と会っていたり、別の男と食事に行ったりしていたことがばれて、君は泣いた。
ほんとうに怒った君とやっていくのは大変で。

こころはいつも、ここではないどこかへ行きたいような。
いったいわたしはどうしたいのだろう。

これって、子供でも出来なければ、結婚する気が起きないオトコみたいだ、あたし。

カオス

うまくいかない。
ただ空回りする毎日。

好きと愛情は違うって悲しくなる。
きみのことを、どんどん嫌いになっていく。

もうどうしたいのかわからない。
わたしはどうしたいの？

「飼い猫になったんだから」
そう、あなたは言う。
でも、あなたのからだをわたしは求める。

どんどんつかれていくあたし。

ふたり暮らし。

ちょうど二年まえ。
あたしは、東南アジアのあのむせかえるような熱気の中で、贅沢なお姫様みたな生活をしてた。
わがまま言って本を読んで、大好きなお酒を飲んでゆったりとしゃべればそれでよかった。

ちょうど一年まえ。
あたしは、きれいな服を着てＯＬごっこをしていた。
部署のおじさまたちのアイドルぶって牛耳って、いつもにこにこしてた。

そしていま。
正社員として仕事のストレスで体を崩しながら働いて、化粧を直す元気もないまま地下鉄に乗る。
そして帰るのは、小さな子供がいる若い夫婦ばかりが住む、こじんまりとした住宅地のマンション。
日当たりのよさと広さであたしが気に入って、君だけの名前で契約した、ふたりの部屋。

あたしたちは、二人で住むマンションを借りた。
いわゆる同棲。
先のことなんて決まっていない。
先のことをあたしが求めているのかもよくわからない。

でもふたりで暮らして、ひとりが長かったから自由がなくて怒ってばかり。
いまはまだ幸せなんて思えないけれど、いつか。
桜が咲き、紅葉が散り、また雪が降るころ、幸せって感じることができるのかな。

素直な悪女

拗ねて甘えて、じぶん勝手。
振り回して、可愛くて仕方ないなあもうっていう表情に、ふふんと鼻を鳴らしてだっこをせがみ、そしてまたどこかへ行く。
そんなわがまま猫であることが、格好いいって思ってたの、たぶん。

「なんか違うんだよね。だからね、最近は別れることも考えてるの」
ふとしたとき、口をついてでた本音。
あたしの口調は投げやりなんかじゃない。ゆっくりと、諭すように。
だってずっとここのところ、考えていた正直な気持ちなんだもの。
眼鏡の奥の君の瞳孔は、ぎゅんとひらく。
凍り付く表情。
だっていま、君はあたしをかわいいいなあ。やっぱ好きです。と言ったばかりだもの。

「ごめん・・・そんなに我慢させてたなんて」
あたしの顔をきちんと見つめながら、君はかなしそうに言った。
「俺もっと頑張るから。どうしたらいいの？」
「だって君はわがままよ。自分のことばっかり考えているじゃない？好きだって幸せにしたいだって、それって自分からしかみてない。どうしたらあたしが喜ぶんだろうかとかそういう考えないの？まあ言わなくても分かるなんてことはないよね。それでも、じゃあこうしてっって言っても君はいままで甘やかされてきたんだろうねえ、って言うばかりだし、それじゃあ何も言えないから、なんだか疲れるんだよ」
うまく言いたいことは言えないけれど、君はなんだか腑に落ちたような表情をした。
「そっか。ごめんね。俺はこももに甘えてたんだろうね。でももっともっと、気にしないで・・・俺だけに甘えてください」
こうべを垂れて、君は言う。
「ほんとう？君のことも、いっぱい甘やかしたり大事にしたりしたいの。でも、いっぱいあたしもわがまま言いたいし、甘えさせてほしいよ」

いきなりあたしの身体を、痛いほどにぎゅって抱きしめて君は言った。
「もっと全部、わがまま言ってください。もっと全部、全部言いたいこと言って。好きだから、俺頑張るから。もしそれでも駄目だっていうんなら、」
「なら？」
身体をすこし離して上目遣いで覗き込むあたしに、君はさらにつけ加えた。
「もっかい頑張るから」
ああ、そういうのに弱いなあ、あたし。

「素直なとこがね、正直で人間らしいとこが好きなんだよ」
君はけっこう、あたしを見てないようで見てるんだ。
君が望むように、プライドの高い君を、手のひらで転がしてあげる。
なんてお互い上から目線カップルなんだけど・・・って、けっこう仲良し、だったりするの？

タイムリミット

君との日々は、いままでになくあたしを疲れさせてる。
高校生ではじめて彼氏が出来たときからいままで、あたしは年上の男の人に愛され、かわいがられ、わがままを言って生きてきた。
だけれども君は、優しいけれどじぶんのことしか考えていない人かもしれない。

君は、あたしを好きだと繰り返す。
多分その言葉に嘘はなくって、でもそれはただの「好き」なんだ。
あたしを、幸せにしたいっていつも言う。
あたしを抱きしめて、俺幸せだって言う。
でも、そこにいるあたしはなんだかしんどくて。
俺はこもも一筋だよ、かわいすぎだよ。
その言葉にも、マニュアル通りに答えるあたしがいるだけ。
幸せなんて、感じることも出来ずに笑ってお姉さんを演じる。

はじめて。
自分だけが負担を強いられてる気がするの。
もう、本音をぶつけても理解し合えないのかな。

いままでが愛されすぎていたの？
余裕のない君との幸せを信じられないあたしは、ちょっとづつ。
君との別れをも考える。

クリスマスはどうしようか？なんて無邪気に聞く君。
そのころまでに、あたしは答えを出すって決めてるのに、密かに。

もしもこのまま、虚しいのならば別れよう。
３１になったあたしに、ずるずると迷いながらする恋は、いらないの。

不安が消える日

君のいない、夜。
あたしは、ぜんぜん不安じゃない。
湯船につかって、きれいにペディキュアされた爪先を見つめても、ため息は、出ない。

いままでは、誰もいない夜が怖くてさみしくて無理して。
強がってお酒をあおって。

でも今は、そんなことないんだ。
傍にいなくても。
もちろん。
会いたいと思えば、車を飛ばしておなじ市内だもの。
そういうことじゃなくって。

君のまなざしが。
あたしを抱きしめる君の腕が。
声が、指先が、その唇が。
あたしは信じるから。

嫌いなところなんて、いっぱいいっぱいある。
子供っぽくて、刺激的じゃないし、部屋は汚いし、馬鹿ねえって思うことばかり。

でも、君といると少しずつ、安心してくあたしがいて。

幸せにしたいんだよ。
家族になりたいんだよ。
そういう君に、あたしはすぐまだあまのじゃくに返しちゃうけど。

君の洗濯物をたたんで、シャツにアイロンをかけてる時間が、けっこう幸せで。
一緒に缶ビールを飲んで話してる時間すら、いとおしい。

虚しさを感じないというのが、こんなに穏やかなものだとは。
あたしは、このままずっと君といるのかな。

それはまだ分からないけれど。
それでも今、こんなにも心が凪いでいるの。

不安のなくなった日々が、いまはただ、不思議なほどいとおしいの。

なつやすみ。

ありえないほどの怒濤の展開。
君との距離、あたしの秘密、弱さ、そして。
すべてがいったん、明るみに出て君とあたしは、ようやく互いを見ることができたのかもしれない。

夏に入り、君の態度が変わった。
ほんとうにしょっちゅう、会うようになった。
その理由は。

仕事だけじゃなかったんだ。
いくらなんでも、休みもなければ連絡もない、そんなわけないのに気づかなかった。
君には３年だか４年だか時を刻んだ「カノジョ」がいたのだ。

そしてあたしは。
婚約破棄してもずるずるとなんでもないけど会う関係のオトコ、愛人関係にあった社長、そして長年不倫をしてきたあなた。
呆れるほど寂しがりやで、男の影どころか男だらけで息つく暇もない。
そしてあたしの最大の秘密。
超高級ソープ嬢をときどき、してるってこと。
君はすべて、知ってしまった。

お互いがすべてを知り。
君もあたしも、素直になったのだろう。

君は夏前、彼女に別れを告げたと言った。
はっきり言って、春から両天秤にかけられていたわけ。
というか知らなかったのに。
かといってこちらのほうが分が悪い。
不倫を続けているどころか、もうめちゃくちゃな大噓つきである。
俺は自分の意思でちゃんとしたのに、こももは違うね、なんて言われても言い返せない。

ぶつかって、毎日どちらかの部屋で過ごして、何百回もくちづけをして。
遠慮なく、お互いに踏み込んで、めちゃくちゃで。
だからこそ、ようやくお互いをすこしだけ知ることが出来たのだろうか。

「好きだよ。俺、結構本気だから。ずっと、一緒にいようね」

君が、あたしが、もう嘘をつかないことを信じよう。

理想と現実

あたしはいったい、どうしたいの？
自分で自分に問いかける。

君とのカンケイはあたしには薄すぎて、すっかり君との将来なんて考えられない。
君との価値観の乖離がかなしくて、それでも眼鏡を外したときの君のちいさくてやさしい瞳とそのおおきな手、きれいな背中が魅力的なの。
でも違う。
いつも先に寝てしまう君の横では相変わらずうまく眠れないから、あたしはそっと腕まくらを抜け出して、部屋に飾ったひまわりの鮮やかな黄色を、ぼうっと見つめる。

あなたと会い、思う存分に甘えて子供を演じる。
水瓜の種をぜんぶ取ってくれるあなたの手。
ちっとも変わらない不倫関係。
でも、あなたが愛してくれてるのは知ってるの。
ほんとうの愛ってなあに？

ふたりの買ってきた、おんなじハーゲンダッツのアイスクリーム。
ツバメの子みたいに口をあけて食べさせてもらいながら、からかうようにキスをねだってみる。
おなじベッドの上、誰に抱かれてもあたしは混乱してく。
どちらも好きよ。
でもね、どちらも足らないの。

都合のいい女？
愛されてる女？

わたしの理想は、たったひとりの人と愛し合って暮らすことなだけなのに。
もうさっぱり、わたしの幸せがどこにあるのか分からないんだもの。

素直になれたら

気づくと君のことばかり考えている。
まったく連絡のこないことに胸を痛めて、でも我慢。
どうせ飲み歩いてるって思ってるんでしょう？
毎晩キッチンに立って、あえて定番料理と言われるものを、ていねいに作る。
もっともっとおいしいものを。

見た目とは裏腹に、料理上手と誉れ高いあたし。
おふくろの味からワインに合うおつまみ、お菓子やパンまで焼ける。
でももっと、こじゃれたものよりも疲れた君を癒せるものを作るんだ。
君のために、なんでも作れるようになりたい。
君が喜びそうなものなら、なんでも。

会いたいよ。
でも、そんなこと忙しい君に言えなくて。
会えたら、どうしていいか分からなくて。
やっと対面しても、お互いのあいだにある妙な距離感。

アルコールのチカラを借りないと、傍になんかいけなくて。
あたしがそっと手を触れたら、君はぎゅっとあたしを抱きしめる。
関心なんて無いふりしてるくせ、些細なことまで覚えている。
降り注ぐキスの雨、呼吸さえ止まりそうなほどに回された腕の力は強くって。

先週会ったときに、酔っていたあたしの記憶はおぼろげだけれど、カラダだけの関係は嫌なのと言ってたから、きょうは絶対に絶対にしないよ。
大切に大切にするんだ。
すごくしたいよ、可愛すぎだよ、でも、大事だから俺は頑張る。
子供みたいに強情に言いながら、若い君の身体は正直だって気づいてる。
そんながんばりは勘違いだよ。
あたしも君が欲しくてしょうがないのに、馬鹿ね。
でも、それが君の思いのほか不器用な、愛情表現。

ほんとうの君はシャイでちょっぴり甘えん坊で、でも年上のあたしに合わせてくれてるんだって知ってるよ。すぐに譲歩するくせに、頑固でほんとうは心配性で真面目で、可愛い君。

まだ言えてない。
好きだよ。
たぶんなんかじゃなくって、君が大好き。

今度こそ・・・伝えられたら。
素直になれたら、君ともっとずっと、傍にいられるのかな。

怖いけれど、君もほんとうは不安なんだよね？
だから、もっと近づけますように。
素直な気持ちを伝えて、もっともっと、君といたい。